すばらしきこの坂道

乃木坂46への愛を叫ぶ場所

今、出来る、精一杯。

月刊「根本宗子」第17号『今、出来る、精一杯。』@新国立劇場中劇場、観劇。奇跡的に行けるようになったので当日券で。

めちゃくちゃにネタバレなのでご注意を。

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あらすじ

舞台はスーパー「ママズキッチン」のバックヤード。そこでは頼りない店長、お局の店員、八方美人のバイトリーダー、正義感の強い若者、どもりで暗い男性店員などが、なんとかお互いに折り合いをつけながら日々働いていた。もうひとつの舞台、安藤雅彦の自宅。仕事が続かない男、安藤は、神谷はなと同棲をしている。バイトが全く続かす、ほぼヒモ状態の安藤は優しくサポートし続けるはな。求人誌をめくる安藤は「ママズキッチン」の募集を見つけて面接を受けることに…。それぞれが自分の正しさのために、例えそれが賛同されないことでも、自分のやり方で生きている。混沌とした中でも生きていく、精一杯の群像劇。

根本宗子作『今、出来る、精一杯。』開幕。伊藤万理華「23歳の私だからこそ伝えられること精一杯伝えたい」 – TOKYO HEADLINE

 

ユーモアを交えながらコメディ調で進んでいく舞台から急にシリアスへ。ボジョレーの試飲を飲みすぎて泥酔した利根川池津祥子)にボジョレーをかけられた篠崎(伊藤万理華)は売り場で泣き喚いてしまう。店長であり篠崎と付き合っている小笠原(水橋研二)は利根川には何も言わずに篠崎を叱る。篠崎と小笠原の言い争いを尻目に利根川は下着を脱ぎ小笠原にお願いをした。

利根川と小笠原は以前恋人関係にあり、利根川はそれ以来小笠原でないとイケない身体になってしまい、別れた今も小笠原にイカして貰っていた。それを「我慢できない」とその場で頼んだのだ。

当然篠崎は泣き喚く。「意味がわからない」「狂ってる」と。対して小笠原は「好きでもない女にこんなことをしなきゃいけない苦しさがわかるか」と問う。その場にいた篠崎の親友の久須美(春名風花)は「気持ち悪い」と一蹴する。

正確にどの台詞でとは覚えていないが、この場面の何箇所かで笑いが起きていた。それが僕には理解できなかった。心を抉られて、苦しくて辛くて仕方がなかった。笑うことなんてできるはずがなかった。

 

2幕。笑いは何度も起きてた。でも全く笑えなかった。まるで自分のことのように傷ついて、ナイフで心臓を何度も刺されているかのように心が痛くて苦しかった。何故これを見て笑えるのかわからなかった。「狂ってる」とさえ思った。それほど苦しかった。

ラストシーン。

安藤(清竜人)が西岡(内田慈)を殺してしまうがそれさえ含めて愛そうとする神谷(坂井真紀)は「めんどくさいところも受け入れられないのに中途半端に優しくしないで」と死体に向かって声を上げる。

足の自由を奪ってしまった加害者と被害者、そのせいで被害者にもなってしまった加害者。お互いに憎しみあっていてお互いに死のうと思っていた長谷川(根本宗子)と金子(小日向星一)は、めんどくさいところを話さなくても知っている2人でどうにかこの先の人生で何かがあることを信じて共に生きようとする。

篠崎は小笠原のめんどくさいところも含めて愛そうと利根川イカそうとする。「好きだから」。それを理解できない、普通じゃないと久須美は言い放ち篠崎の元から去ろうとする。トラウマから誰とも深く関わろうとしなかった坂本(瑛蓮)はそんな久須美に対し声を大にして「久須美さんは間違ってないと思う」「久須美さんは普通なんだと思う」と伝え抱きしめる。

その場をしのいだだけで結局根本的には何も解決していないけど、それでも苦しくて辛いものが昇華されていくような気がして泣いてしまったんだなと思う。

 

「生きてさえいれば」

辛いことも苦しいこともたくさんある。でも生きてさえいればどうにでもなる。たとえ傷ついたとしてもめんどくささと向き合って、精一杯生きる。明日のことは明日考えればいいし、明日になればその明日のことは今日のことになるから。

 

今、出来る、精一杯。